ME310/SUGARについて
ME310/SUGARは、約9ヶ月間のデザイン思考型プログラムです。ME310/SUGARネットワークに属する世界各地の大学の学生が、互いに協力しながら革新的な製品やサービスの開発に取り組みます。リエゾン企業より提供されるプロジェクトテーマに対し、デザイン思考型アプローチを用いてプロジェクトは進められます。学生チームはリサーチを通して新たなニーズを発見し、ラピッドプロトタイピングとテストを繰り返しながら問題解決の可能性を探ります。様々な試行錯誤を経て作り上げた最終プロトタイプは、毎年6月にシリコンバレーで実施されるイベント「EXPO」にて発表されます。なお、最終成果物のコンセプトの多くは、リエゾン企業においてさらなる開発が進められ、社会実装まで至るケースもあります。
ME310/SUGARで行われるプロジェクトは、多岐にわたります。過去には、農業、航空、自動運転、家電、デジタルトランスフォーメーション、災害救援、老人介護、産業機械、繊維などに焦点を当てたプロジェクトがありました。デザイン思考を活用したME310/SUGARのアプローチは、多くの産業に応用することができます。プロジェクトセクションにある、過去のケーススタディをぜひご確認ください。
ME310の歴史は1967年までさかのぼり、スタンフォード大学で行われた機械工学科学生向けの問題解決型コースに端を発します。世紀の変わり目に、このプログラムは世界に広がり、世界の一流大学と学生たちを引き合わせました。この流れが、SUGARネットワークの誕生に繋がりました。京都工芸繊維大学では、2009年からME310/SUGARプログラムを実施しています。詳細については、歴史のセクションをご覧ください。
デザイン思考型アプローチ
ME310/SUGARのイノベーションへのアプローチは、近年「デザイン思考」として知られていますが、これはシリコンバレーで生まれ、過去10年間で世界中に広がった方法論や思考法です。デザイン思考では、次の3つの基本原則に焦点を当てています:
・人間のニーズとコンテクストの深い理解
・ラピッドプロトタイピング、実験、反復
・チームから最良の結果を引き出すイノベーションカルチャー
従来型の製品開発方法論でも段階的な改善は可能かもしれませんが、デザイン思考ではイノベーションに対してこれまでにない斬新なアプローチを取ります。過激なアイデアであっても軽視することなく、スピーディーなプロトタイピングを通じてアイデアをテストし、問題解決の可能性を探ります。また、常にユーザーをデザインの中心に置いてプロジェクトは進行します。京都工芸繊維大学は、日本でのデザイン思考教育の最前線に立ち、学生向けのプログラムだけでなく、企業向けのワークショップも定期的に実施しています。
プログラムの構成
ME310/SUGARのプロジェクトは、国籍のみならず文化や専門性の異なる学生によって実施されています。文化や技術の多様性は画期的なイノベーションと相関することが知られています。また、国際的なアカデミックカレンダーに合わせてプログラムは9月下旬に開始され、翌年の6月上旬まで継続します。最初の1ヶ月間は、様々な基礎課題や講義を通じてME310/SUGARにおけるイノベーションへのアプローチ手法を学びます。そして10月下旬に開催されるSUGARグローバル・キックオフ・ワークショップにば世界中から学生が集まり、パートナー大学と協力して進められるプロジェクトもここから始まります。
プロジェクトが始まると、学生チームはそれぞれの大学から、Skypeなどのビデオチャットツールを活用して海外のパートナー大学とコミュニケーションをとります。また、9カ月の間にお互いの国を訪問し、対面形式でコミュニケーションを深めながらプロジェクトに取り組む期間もあります。なお、週1回実施される講義では、ニーズ発見、ベンチマーキング、プロトタイピングなどの具体的なデザイン思考型ツールについて学びます。そして、各チームは毎週のSGM(スモール・グループ・ミーティング)でティーチング・チームと意見交換し、自分たちのトピックに関するフィードバックを得ます。以上のように、学生チームがデザイン思考のアプローチを活用しながら、目指す成果を挙げることができるようティーチング・チームが導いていきます。
9カ月間にわたるプロジェクトの成果物として、各チームは最終プロトタイプと、プロジェクトに関わる詳細な情報をまとめたドキュメンテーションを提出します。ドキュメンテーションには、失敗したアイデアを含め、チームが得た全ての学習内容が要約されています。
6月上旬にはME310/SUGARネットワークに属する全ての大学がにシリコンバレーに集まり、SUGAR EXPOとME310 EXPEが開催されます。これは展示会スタイルのイベントで、通常のプレゼンテーションに加え、ブースでの展示も実施されます。その後、京都工芸繊維大学での成果発表イベントや、リエゾン企業での報告会も行われます。なお、最終成果物で提示されたコンセプトの多くは、社会実装に向けてリエゾン企業においてさらなる開発が進められます。
メンバー
京都工芸繊維大学にはデザイン学、建築学、経営学、情報工学、機械工学など様々な専門分野で学ぶ学生がいます。また、ME310/SUGARネットワークに属する他大学には、最先端技術、ソフトウェア開発、ビジネスイノベーションなど、異なる専門知識を持つ学生がいます。また、専門分野の異なる教授陣、ティーチングアシスタント、コーチ、卒業生によるネットワークが、チームの活動を広範囲にサポートします。京都工芸繊維大学では以下の教授陣がME310/SUGARを担当しています。
スシ・スズキ
准教授
デザイン·建築学系
スシ・スズキはスタンフォード大学での大学院生時代に、まず学生としてME310のプロジェクトのひとつに携わりました。それ以降、ティーチングアシスタントやエグゼクティブディレクターとして、プログラムの国際的な拡大や、企業や海外大学とのプロジェクトの調整に尽力してきました。
2009年、彼はフランスのÉcole des Ponts ParisTech(国立土木学校)にこのプログラムとデザイン思考を取り入れ、Paris-Est d.schoolの設立に携わりました。その後、パナソニック·ヨーロッパでイノベーションチームを設立し、ドイツのスタートアップ企業Yocondoでもコンセプト開発者を勤めました。
京都工芸繊維大学では、ME310/SUGARに加え、京都スタートアップサマースクールプログラムを主導し、スタートアップウィークエンドのファシリテーターとして現地のスタートアップをサポートしたり、Slush Tokyoなどのさまざまな組織のピッチコーチを勤めています。彼はまた、学生、企業、起業家志望者向けのワークショップを世界各地で開催しています。
ライス大学で機械工学の学士号とスタジオアートの学士号を、スタンフォード大学で機械工学の修士号を取得しています。
Andrew I-Kang Li
准教授
デザイン·建築学系
アンドリュー・リーは、京都工芸繊維大学のコンピュテーショナルデザインの准教授です。彼は計算手法を用いて建築史を研究し、コンピュテーショナルデザインの合成や解析のためのソフトウェアツールを作成しています。
マサチューセッツ工科大学客員教員であり、香港中文大学建築学部の創設時の教員を勤めました。彼はまた、韓国科学技術院(KAIST)の非常勤教授、コンピュテーショナルデザインを専門とする組織 Athlone Researchの代表を勤めています。
日本建築学会の会員であり、Association for Computer-aided Architectural Design Research in Asia(CAADRIA)の会長、International Journal of Architectural Computingの編集部の創設メンバー、Nexus Network Journalのコレスポンティング·エディターを勤めています。
マギル大学、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学で教育を受けました。
多田羅景太
助教
デザイン·建築学系
多田羅 景太は、2010年から京都工芸繊維大学におけるME310/SUGARプログラムに携わっています。
1999年にKITを卒業後、コペンハーゲンに移り、デンマーク王立芸術アカデミー(KADK)で家具デザインを学びました。デンマーク滞在中にはコペンハーゲンのスカンジナビア家具見本市や家具展に参加。KADKを卒業後京都に戻り、デザイン事務所を設立し、家具のデザイン・製作・販売を行っていました。
2008年に京都工芸繊維大学に着任し、インテリアデザインと製品デザインを中心に担当。日本の他大学でも家具デザインについて教鞭をとっています。教育に加えて、デンマークの家具デザインの歴史を研究し、2019年にその研究をまとめた本を出版しました。
専門は家具デザインを中心としたインテリアプロダクトのデザイン。
日本意匠学会、日本デザイン学会、日本北欧建築·デザイン協会に所属。